偏愛

同じ文庫本を3冊持っている人の話

書店員のYさんの本棚には、同じ文庫本が三冊ある。読んでいるのは一冊だけ。残りの二冊は、まだ会っていない誰かのために置いてある。

卓に開かれた文庫本と、その奥に積まれた数冊の文庫本
Yさんが読んでいる一冊。鉛筆の線は十六年ぶん。

同じ本が、三冊ある

Yさんの本棚に、同じ文庫本が三冊並んでいる。カバーの色から、買った時期が違うことがわかる。いちばん古い一冊は十六年前のものだ。

三冊のうち、Yさんが読んでいるのは最初の一冊だけ。残りの二冊は、まだ一度も開かれていない。

貸すために買う

Yさんは書店員で、店頭で本の相談を受けることがある。話の流れでこの本を薦めることがあり、そのときに貸す。

返ってこないことがある。十六年で四冊が戻ってこなかった。だから在庫を持つようになった。

「読むためではなくて、貸すために買っています」

返ってこないことは気にならないのか聞いた。

「返ってこないほうが、たぶん読まれてます」

自分の一冊は貸さない

ただし、最初の一冊だけは貸さない。書き込みがあるからだという。見せてもらうと、鉛筆の線が数十本引いてあった。

線を引いた時期はばらばらで、十六年のあいだに何度も読み返している。同じ行に二本引いてある箇所もあった。二度目に引いたとき、一度目に引いたことを忘れていたことになる。

最初の一冊
2010年
いまの冊数
3冊(うち未読2冊)
戻ってこなかった数
4冊
手入れ
カバーは外して保管

本棚にある三冊のうち、二冊はYさんのものではない。まだ会っていない誰かのために、十六年ぶん場所が空けてある。

書き手

平島

編集者。台所と道具まわりの取材が多い。

平島自身の偏愛:17年使っている土鍋

べつの見方

同じものを、時間を置いて読み直すという話。

カルチャー 46年前の雑誌と、いまの雑誌。変わったのはどちらか。

日曜の便り

この取材で書けなかった話を、日曜に送ります。

書店員・Yさんへの取材では、記事に入りきらなかったやりとりがいくつかありました。そういうものを週に一度だけ送っています。

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