偏愛

5年間、洗剤を使っていないフライパン

工場の設備保全を担当するOさんは、五年前に買った鉄のフライパンを一度も洗剤で洗っていない。最初の三か月は、卵が全部貼りついた。

ガス台にのった黒い鉄のフライパン。底に使い込まれた焼き色がついている
五年間、洗剤で洗っていない鉄のフライパン。

五年で、洗剤を一度も使っていない

Oさんの鉄のフライパンは、直径二十六センチ。五年前に通販で買った。四千五百円だった。

この五年、洗剤で洗ったことが一度もない。使い終わったらお湯をかけ、たわしでこすり、火にかけて水気を飛ばす。それだけを五年続けている。

最初の三か月は、失敗し続けた

買った当初は卵がすべて貼りついた。説明書のとおりに油をなじませても駄目で、三か月ほどは目玉焼きを作るたびに崩れていたという。

途中で買い替えを考えたか聞くと、「考えました」と即答があった。捨てなかった理由は、たまたま忙しくて買い物に行けなかったから、とのことだった。

「四か月目に急にくっつかなくなって、それからずっとです」

慣らす前に、手を入れない

Oさんは工場の設備保全を担当している。新しい機械を入れたときは、しばらく様子を見てから調整に入るのが原則だという。

「機械もそうですけど、慣らす前に手を入れると駄目になるので」

三か月失敗し続けたあいだ、Oさんは洗い方も焼き方も変えていない。変えなかったのは我慢ではなく、仕事で同じことをしているからだった。

手順のほうが変わった

いまOさんは、フライパンを火にかけてから食材を出す。冷たいまま入れると貼りつくからだ。以前は食材を全部切ってから火をつけていた。

道具に合わせて、調理の順番そのものが入れ替わっている。Oさんはその変化を、聞かれるまで意識していなかった。

使い始め
2021年
サイズ
直径26cm・鉄
価格
4,500円
手入れ
お湯とたわし。使用後に空焼きして乾かす

五年で変わったのは、フライパンの状態ではない。火をつける順番と、食材を出すタイミングと、洗い方のほうだ。

書き手

平島

編集者。台所と道具まわりの取材が多い。

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べつの見方

道具に手順を合わせている、もう一人の話。

人生ストーリー 退職後、パン屋になった元営業マン

日曜の便り

この取材で書けなかった話を、日曜に送ります。

設備保全・Oさんへの取材では、記事に入りきらなかったやりとりがいくつかありました。そういうものを週に一度だけ送っています。

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