連載 30年、使っている。 第2回

万年筆|30年で、3度だけ修理に出した

翻訳者のMさんが三十年使っている万年筆は、修理に出した回数が三度だけだった。ペン先は本人の持ち方に合った形になっていて、他人が書くと引っかかる。

三十年使われた万年筆のペン先の接写。ペン先が片側に偏って摩耗している
三十年ぶんの摩耗。他人が書くと引っかかるのは、この片減りのため。

三十年で、三度

Mさんの万年筆は、三十年前に神田の店で買った。当時の価格で二万八千円。翻訳の仕事を始めた年だった。

この三十年で修理に出したのは三度。一度目は十二年目でペン先の調整、二度目は十九年目でインクの吸入部の交換、三度目は二十六年目に胴軸の割れを直している。

「壊れるたびに直しているというより、三十年で三回しか壊れていないという話です」

ペン先が、手の形になる

万年筆のペン先は、使う人の筆圧と角度で少しずつ削れる。同じ人が使い続けると、その人の持ち方に合った形に落ち着く。

Mさんのペン先を借りて書かせてもらった。線が均一にならない。同じ筆記具のはずなのに、こちらの角度では引っかかる。

「人に貸すと、だいたいそう言われます。貸さないようにしています」

書く量は、減っている

翻訳の下訳は二十年ほど前から画面上でやるようになった。万年筆を使うのは、訳語を決めきれないときのメモと、月に数通の手紙だけになっている。

一日の使用時間を聞くと、十分に満たない日が多いという。それでも毎朝インクを確かめる。

三度目の修理のとき、店の人に買い替えを勧められたことがある。同じ型はもう作られていない。近い型なら在庫があると言われた。

使い始め
1996年
買った場所
神田の筆記具店
価格
28,000円(当時)
修理
3回(12年目・19年目・26年目)

三十年で三度直した。買い替えを勧められたのも三度目のときだった。

直すか買い替えるかを決めているのは、値段ではなく、貸すと引っかかると言われるペン先のほうだ。

書き手

鈴木

ライター。ものの手入れと修理を追っている。

鈴木自身の偏愛:12年履いている革靴

べつの見方

減っていくことでしか記録されない道具の話。

偏愛 24年削り続けたまな板を、見せてもらった

日曜の便り

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