遠出
11年、同じ宿の同じ部屋に泊まっている。
元・自動車部品メーカー勤務のRさんは、毎年十一月の第二週に同じ宿へ行く。部屋は「三番」と決まっている。十一年で、一度だけそこに泊まれなかった年がある。
十一年で十一回
Rさんが行くのは、電車で二時間半のところにある温泉宿だ。最初に行ったのは二〇一五年。以来、毎年十一月の第二週に一泊している。
十一年で十一回。回数と年数が一致している。
泊まるのは「三番」という部屋。二階の角にあって、廊下のいちばん奥にある。窓からは駐車場と、その先の低い山が見える。
「景色がいいわけではないんです。むしろ、駐車場ですから」
十年目に、取れなかった
去年、三番が取れなかった。予約を入れるのが遅れて、先に埋まっていた。
その年は同じ宿の一階、五番という部屋に泊まった。広さはほとんど同じで、風呂も食事も変わらない。
「違う宿みたいでした」
何が違ったのか聞いた。廊下の音が聞こえること、窓の外が生垣であること、朝に日が入らないこと。三つ挙げてから、Rさんは「それだけです」と言った。
今年は八月に予約を入れて、三番が取れている。
名前は覚えられていない
宿の人とは、十一年で親しくなっていない。チェックインのたびに宿帳に住所と名前を書く。「またお越しくださいまして」と言われたことはないという。
それでいいのか聞いた。
「常連になりに行っているわけではないので」
宿での過ごし方は決まっている。着いて風呂に入り、夕食を食べ、もう一度風呂に入って寝る。夕方に一度だけ外に出て、駐車場を抜けて十五分ほど歩く。行き先はない。
料金は十一年で八千八百円から一万一千円になった。値上がりについては「そうでしょうね」とだけ言った。
- 通い始め
- 2015年
- 回数
- 11回(毎年11月第2週・1泊)
- 部屋
- 三番(2階角・廊下のいちばん奥)
- 三番以外に泊まった年
- 1回(2025年・五番)
- 料金
- 8,800円 → 11,000円
- 移動
- 電車で約2時間30分
十二年目の予約はもう入っている。三番だという。
取れなかったらどうするか聞いたら、「五番でしょうね」と言われた。
べつの見方
はじめての宿を探すと、何が起きるか。
遠出 ひとりで泊まれる宿を、37軒に断られた。日曜の便り
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