カルチャー 特集 VOL. 01

わたしたちが共に生き、今に根付き、そして、これからをつくり続けるカルチャーと人。

音楽、映像、ファッション、小説。十代、二十代のころに出会ったものは、いまも世界のどこかで次の形をつくり続けている。時代を超えて生き続けている、九人の物語。

OUR CULTURE, OUR PEOPLE と題された企画の表紙
OUR CULTURE, OUR PEOPLE ── はじまりの一篇。

始まりはずっと前。終わりは、まだ来ていない。

山下達郎、細野晴臣、宮崎駿、大友克洋、北野武、川久保玲、山本耀司、重松理、村上春樹——。

十代、二十代のころに出会った音楽、映像、ファッション、小説。その関係は、途切れることなく、いまもずっと続いています。今も根を張り、次の枝を伸ばしている。

あの頃好きだったものは、今この瞬間も、世界中のアーティストやデザイナーの手の中で、次の形をつくり続けています。終わった話ではなく、続いている話です。

OUR CULTURE, OUR PEOPLE

九人の、続いている話

01

鳴らした音が、世界の耳を巻き戻す

山下達郎が編曲・プロデュースを手がけた「プラスティック・ラブ」は、2017年頃からYouTubeのレコメンドをきっかけに世界中で再生され、数千万回再生という規模に達しました。海外の若いリスナーやDJが日本の80年代サウンドを聴き直す、世界的な「シティポップ」ムーブメントを生んだ一曲です。

ところが本人は、いまも自身の楽曲を一切サブスクリプション配信サービスに提供していません。「表現に携わっていない人間が自由に曲をばらまいて、その儲けを取っている」という一貫した考えを守り、CDとレコードという形にこだわり続けています。世界中から求められてもなお、自分の流儀を変えない。それもまた、彼の音楽がいまも特別な存在感を放つ理由のひとつです。

山下 達郎のイラスト

山下 達郎

ミュージシャン/シティポップ

02

重ねた音が、いまも新しい客席を満たす

細野晴臣の初期ソロ作『HOSONO HOUSE』をはじめとする作品群は、2018年にアメリカのレーベル Light In The Attic によって復刻されると、音楽メディア Pitchfork が特集を組むなど一気に再評価が進みました。2019年の初ニューヨーク単独公演はチケットが即日完売。会場を埋めたのは現地の若い観客でした。

2026年9月には、ニューヨークのラジオ・シティ・ミュージック・ホールとロサンゼルスのザ・グリーク・シアターで、自身2度目となるアメリカツアーを予定しています。是枝裕和監督がカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した『万引き家族』の音楽も手がけ、海外の若手アーティストがカバーアルバムに参加するなど、世代を超えた支持を集め続けています。

細野 晴臣のイラスト

細野 晴臣

ミュージシャン/YMO

03

描いた世界が、いまも賞を更新し続ける

宮崎駿は2013年に長編引退を宣言しましたが、それを撤回し、10年の時間をかけて『君たちはどう生きるか』を完成させました。本作は2024年、『千と千尋の神隠し』以来21年ぶりとなる、自身2度目のアカデミー長編アニメーション賞を受賞しています。引退を宣言した年から数えて、11年が経っていました。

ピクサーの創業メンバーであるジョン・ラセターは、自身が制作に行き詰まったとき宮崎作品を見て発想を得ると公言しており、ウェス・アンダーソンやギレルモ・デル・トロといった監督たちも、その影響を公の場で語っています。もう十分だと言われてからも新作を生み出し、世界中の映画人に刺激を与え続けている存在です。

宮崎 駿のイラスト

宮崎 駿

映画監督・アニメーター

04

描いたネオ東京が、いまも次の映像を呼ぶ

大友克洋が1988年に手がけたアニメーション映画『AKIRA』が描いたネオ東京の未来像は、その後のSF映像表現の基準そのものを変えました。『マトリックス』のVFXチームは「バレットタイム」のアイデアの源泉として本作を挙げ、カニエ・ウェストは2007年の楽曲「Stronger」のミュージックビデオで『AKIRA』のシーンをほぼそのまま再現しています。

本人もこの映画を「自分にとって最大の創作的インスピレーション」と公言しています。漫画とアニメ、両方の領域で生まれたひとつの想像力が、ジャンルも国境も越えて、いまも新しい映像作家たちのイメージソースになり続けています。

大友 克洋のイラスト

大友 克洋

漫画家・映像作家

05

貫いた作風が、いまも勲章を重ねていく

北野武は1997年、自身が監督・主演を務めた『HANA-BI』でヴェネチア国際映画祭の最高賞である金獅子賞を受賞しました。その後もフランスでの評価は途切れることなく続き、1999年に芸術文化勲章シュヴァリエ、2010年に同コマンドゥールを受章した後、2016年にはレジオン・ドヌール勲章オフィシエを授与されています。

授与の際、フランス政府は「演劇・テレビ・映画・文学などの約束事を変革し、現代のアートシーンに影響を与えてきた」とその功績を評しました。お笑いタレント「ビートたけし」としての顔と、世界の映画祭が認める監督としての顔——その両方を併せ持つ存在は、いまも他に類を見ません。

北野 武のイラスト

北野 武

映画監督

06

壊した型が、美術館に並ぶ

川久保玲が1981年、パリコレクションで発表した黒一色の非対称な服は、当時のフランスの記者から「ヒロシマ・シック」と評されるほどの衝撃を与えました。しかしその「脱構築」の精神は、後進のデザイナーたちに大きな影響を残し続けています。

2017年、ニューヨークのメトロポリタン美術館は「Rei Kawakubo/Comme des Garçons: Art of the In-Between」という個展を開催しました。現存するデザイナー個人の個展は、1983年のイヴ・サンローラン以来34年ぶり、史上2人目という出来事でした。一度は「ファッションではない」と批判された服が、いまや美術館に並ぶ作品として再評価されています。

川久保 玲のイラスト

川久保 玲

コム デ ギャルソン

07

黒の衝撃が、スポーツの現場に立つ

山本耀司は川久保玲とともに1981年のパリコレクションで「黒の衝撃」を巻き起こした、もう一人の立役者です。2003年には自身の名とアディダスの3本線を組み合わせたブランド「Y-3」を始動。ハイファッションとスポーツウェアを融合させるという、当時はまだ珍しかった発想の先駆けとなりました。

このコンセプトはいまやファッション業界の常識となり、2024年にはサッカー日本代表の公式ユニフォームをY-3が手がけるまでに広がっています。40年以上にわたりパリ・ファッション・ウィークでコレクションを発表し続けるその姿勢も含め、彼がつくった「型」は、いまも形を変えながら広がり続けています。

山本 耀司のイラスト

山本 耀司

デザイナー

08

見つけた目利きが、海を越えて店を開く

重松理は1976年、日本のセレクトショップの草分けである「ビームス」の立ち上げに携わり、1号店の店長を務めました。その後1989年、仲間とともに「ユナイテッドアローズ」を創業。海外のブランドと国内の感性を一つの店内で編集して見せる「セレクトショップ」という業態を、日本の生活文化の一部として根付かせた立役者の一人です。

この二つの会社が生んだ買い物の形は、いまも進化を続けています。ビームスは2026年、米ロサンゼルスに過去最大規模となる旗艦店をオープン。重松が半世紀近く前に見つけた「いいもの」を見つける目は、いまも次の市場をつくり続けています。

重松 理のイラスト

重松 理

ユナイテッドアローズ 創業者

09

紡いだ言葉が、次の言葉を呼んでいる

新しい日本人作家が紹介されるたび、世界の書評にはたいてい「次のムラカミ」の文字が並びます。村上春樹の作品は50以上の言語に翻訳され、世界中で読まれています。その世界的な成功は、彼自身の名前を一つのジャンルの代名詞にしただけでなく、小川洋子や桐野夏生といった他の日本人作家が翻訳・紹介される道を開き、日本文学全体への注目を引き上げる役割を果たしてきました。

夜更けに読んでいた一冊が、いま、世界中の読者と書き手が参照する「日本文学とは何か」という問いの起点になっています。

村上 春樹のイラスト

村上 春樹

作家

ここで紹介したのは、その入り口にすぎません。これは、ここから始まる物語の、最初の一篇です。

これから、音楽、映像、ファッション、小説——ジャンルを一つひとつ深く掘りながら、生きてきた時代の文化が、今の世界とどうつながっているのかを、丁寧に届けていきます。

次の物語も、また、ここで。

この記事は、企画資料「導入」(企画・株式会社スマイル/全12ページ)をもとに構成しています。記載した事実関係は同資料に拠るもので、公開前に一件ずつ裏取りが必要です。人物イラストは同資料から使用しています。

SOURCE

企画資料(全12ページ)

もとになった企画資料を、1ページ目から順に収録しています。そのままスクロールして続けて見ることができます。

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  12. P. 12

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べつの見方

続いていることを、一人の台所から見る。

偏愛 31年使っている茶碗の話を、聞きに行った

日曜の便り

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この特集は、ジャンルごとに続いていきます。出たときに一度だけお知らせします。取材で書けなかった話も、そのとき一緒に送ります。

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