偏愛

22年、同じタイルの上に置いている鉢

ベランダの、決まった一枚のタイルの上。元・印刷会社勤務のMさんは、山椒の鉢を二十二年そこに置いている。冬になると葉が全部落ちる。毎年、枯れたと思うのだという。

ベランダのタイルの上に置かれた、素焼きの鉢に植わった山椒の木
四月。鉢の底の形に、タイルの色が残っている。

タイルのほうに、跡がついている

Mさんのベランダには、四十八枚のタイルが敷いてある。鉢が置いてあるのは、手前から三列目の左から二枚目。二十二年、この一枚から動かしていない。

鉢をどけてもらった。タイルの色が、鉢の底の形にまるく抜けている。周りは日に灼けて白く、そこだけが買ったときの灰色のままだった。

「鉢のほうは何度も洗っているんですけど、タイルは戻らないですね」

毎年、枯れたと思う

植わっているのは山椒。二十二年前、近所の園芸店で買った。当時は膝の高さくらいだったものが、いまは腰まである。

山椒は落葉する。十二月に入ると葉が一枚もなくなり、枝だけになる。

「二十二回とも、これは枯れたと思っています」

四月の第二週あたりに、枝の先が緑になる。そこまでは水をやり続ける。やらなかった年は一度もない。

「やめてしまったら、そこで終わりますから。終わらせる理由が、まだないんです」

植え替えは、二回だけ

植え替えたのは二回。十年目と、十八年目。どちらも枝が伸びなくなったのがきっかけだった。鉢そのものは最初のまま、素焼きの八号を使っている。

園芸店では「二、三年に一度は替えたほうがいい」と言われた。そうしなかった理由を聞くと、少し考えてから答えがあった。

「動かすのが、こわいんだと思います」

実の収穫は、多い年で三十粒ほど。佃煮にすると小鉢一杯にもならない。それでも毎年、数えて摘むのだという。

植えたもの
山椒(2004年・近所の園芸店で購入)
素焼き 8号。買い替えなし
植え替え
2回(10年目・18年目)
置き場所
ベランダ手前から3列目・左から2枚目のタイル
いちばん多かった年の実
34粒

取材は二月だった。枝には葉が一枚もない。写真を撮っていいか聞くと、Mさんは「いまはやめておきます」と言った。

四月にもう一度うかがった。枝の先が緑になっていた。Mさんは「今年もでした」とだけ言った。

書き手

平島

編集者。台所と道具まわりの取材が多い。

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日曜の便り

この取材で書けなかった話を、日曜に送ります。

Mさんへの取材では、記事に入りきらなかったやりとりがいくつかありました。そういうものを週に一度だけ送っています。

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